虚勢
ギリギリだったね…と声を掛ける。
ええ、まあ…と喜多村部長が応える。
今日がイベントの実質の最終日。マドロックやロスモンティスの昇進やスルトやシルバーアッシュのスキルの特化などが最優先で進められていたが、アーミヤのS2の特化3も目途が立ったことから、急遽、ウィスラッシュの昇進を行うことになったのであった。
「どうした喜多村部長。何か気になる点があるのか?」
私は少し歯切れの悪い返答に違和感を感じていた。
「ウィスラッシュの昇進は、優先課題でもありましたので、全くそのこと自体は問題ないのですが…」
まだ、何か言いたそうな喜多村部長。「話してみろ」と促すと喜多村部長は「それなら…」と言葉を続けた。
「ウィスラッシュは優秀なオペレーターであることは間違いないのです。ただ、その素質は重装に対して有効といいますか、ブレミシャインやニアールがいて活きるものだと。さらに弊ロドスにはマドロックが加わりましたが、相性の良いブレミシャインがいないことが気懸かりで… 折角、昇進2にしたオペレーターが本来のパフォーマンスを活かせないのが……」
辛いのだと、喜多村部長が言う。
確かに相性のよいオペレーターというのは存在していて、それらのシナジーを活かすことは、弊ロドスのような零細企業においては重要なことだ。だがしかし、零細企業だからこと、必要なオペレーターが確保できないのだ。諦めるしかないのだが、真面目な喜多村部長には矢張り、その現状が辛いのだろう。
「喜多村部長の心境は痛いほど察した。それは会社経営者として謝罪したい。満足なオペレーターを揃えられないことには不甲斐なさを感じている。だが、それは決して卑下するものではない。まあ、見ててくれ。明日から開催されるイベントは圧倒的な戦力でクリアしてみせるさ」
私は珍しく虚勢を張る。だが、これも時と場合において必要なことなのだ。
喜多村部長の表情もどこか憑きものが落ちたように晴れ晴れとしていた。