弊ロドスに関しまして。

アークナイツ。月パス。月スカ勢の活動記録

助け合うということ

 少し前の話になる。

「君は、私にコレを承諾して欲しい。そう言っているのか?」
「はい。申し訳ございませんが、計画を変更させていただきたく…」
 語尾が室内に霧散する。
 私の目の前で四十代の男性二人が頭を下げている。人材育成部の喜多村部長と人材育成第二課の森島課長である。二人とも弊ロドスで立場のある職員ではあるが、私は追求の手を緩めることはしなかった。いや、できなかったのだ。
「この件については、先の経営会議での決定事項ではなかったかな? スキル特化はマドロックのS2とS3。その後にスルトとシルバーアッシュのS3。そうすると喜多村部長も説明していたはずだが。それを急に、ロスモンティスのS3も特化したいとはどうゆうことなんだ?」
「これは情報部から情報提供があった話しなのですが、新たに追加された殲滅作戦は難易度がかなり高いらしく、弊ロドスの戦力ではクリアは難しいのではと。また、攻略担当の北濱係長は追加になったマドロックとロスモンティスを中心に編成したい…なんてことも周囲に漏らしているという話しも同時に聞かされたので、ロスモンティスのS3の特化も行いたいという次第であります」
 理解出来ない話ではないのだ。森島課長は攻略部の意向を汲んで計画を変更したいと相談をしているのだ。しかも、北濱係長は二十代ながらも数々の実績が認められ、史上最年少で係長に抜擢された人物である。あの攻略部の添島部長が認めたほどの若手の意向を最大限にきいてあげたいという、その心意気は弊ロドスの健全な事業展開において、頭ごなしに否定されるものではない。思いが逡巡する。
「藤堂部長には話しは通してあるのか?」私が問う。
「まだ、話しはしていません」
「順番が逆ではないのかね?」
「実はもう着手してしまったのです」
 矢張り。
 喜多村部長も史上最年少で部長になった人物である。史上最年少。エースと呼ばれ続けてきた男は次世代のエース。後継者になりえる男を最大限バックアップしたいと考え、その思いが強すぎたがためにスタンドプレーに奔ってしまったのだろう。
 だが、これは重大の業務違反だ。罰せられても仕方のない事案だ。
 しかし、私の怒りはそのことに対する怒りではないのだ。
 私もかつてはエースと謂われたことがあった。そして、その後継者に喜多村部長を指名したつもりであった。こんなことで彼の経歴に疵がついてしまう。何故、報告がなされなかったのか。何故、先に藤堂部長に報告しなかったのか。もし、私がこの件を承諾してしまったら、藤堂部長のメンツを潰してしまうことになる。よって、藤堂部長に報告すべきなのだが、藤堂部長に報告がなされば、業務違反が明るみになる。喜多村部長と森島課長は責任を問われることになるだろう。
「覚悟は出来ているのか?」私は問う。
 私の目の前で四十代の男性二人が静かに頷く。その表情からは些かの迷いも感じられない。
 惜しい。森島課長も目立った功績はないが、目立った失敗もなかった。人柄もよく、周囲からは頼られる存在である。
 優秀な部下二名を処罰しなければならない。
「よろしい。では二人には」と処分を伝え掛けたところで、受話器が鳴る。
「藤堂部長よりお電話です」秘書の飯島の声。
「つないでくれ」直ぐに受話器から藤堂部長の声が聞こえてきた。
「申し訳ございません。私の手違いでロスモンティスの特化を優先させてしまいました」
 出来過ぎた芝居だ。きっと、北濱係長が藤堂部長に申し出たのであろう。
 将来を期待された者同士が責任を感じ、助け合う。
 決して褒められたことではないが、この無形の公助こそが弊ロドスの財産なのかもしれない。
「喜多村部長。そして森島課長。どうやら君達は勘違いしていたようだな。藤堂部長から私に謝罪の連絡があったよ。要件は済んだだろうから退室して構わないよ」
 喜多村部長と森島課長はお互いの顔をみて、何が起きたのか察しがついたのであろう。
 直ぐ明るい表情を浮かべ、私の執務室をあとにした。
 私もそんな彼らの後ろ姿をみながら、そっと表情が緩んでしまっていた。