渇望
「5連で結構ですので、引いてもよろしいでしょうか?」
「まあ、そこまで仰有るのであれば…」
調子が狂うやりとり。
人事部の御堂部長が珍しく私に頼み事に来ていた。ソーンズを引きたいので5連でいいからガチャを回したいというのだ。
ソーンズが優秀なのは理解している。何を隠そうソーンズの実装当時、弊ロドスでは引くために結構無理をしてガチャを回した経緯もある。何かと因縁深いオペレーターの一人である。
危機契約を前にソーンズを採用したい人事部の意向は十分に理解できるもでのある。
だが。現状、★6オペレーターを引いて十分な育成リソースがあるとは限らない。
マドロック、ロスモンティス、スルト、シルバーアッシュとアーミヤ。スキルの特化作業を敢行中で、素材は枯渇しつつある。だが、そんな状況は御堂部長も重々承知している筈。それなのに、この申し出である。
きっと裏があると確信しつつも、渋々、了解したところであった。
「ありがとうございます。早速、統括部に決裁を頂くことにしますわ」
ではのちほど……と機嫌良く御堂部長は執務室を意気揚々と出ていった。
数分後。
悲鳴のような声が聞こえる。私の部屋まで聞こえるということは、相当な音量である。勿論、悲鳴の主は御堂部長である。
その悲鳴から、ソーンズが引けたことを確信した。5枚で引ければ、大成功である。
「引けましたわ。見て下さい」と御堂部長は私の執務室に入るなり、求人票を私の眼前に差し出した。
「これはソーンズではないね」
「ええ。そうですとも。イグゼキュター様ですわ」
「イグゼキュター様……」
御堂部長は、目的が見失ってしまっていた。きっと、彼女にはストライクなオペレーターであったのだろう。ただ、弊ロドスには在籍していないタイプのオペレーターではある。火力は期待できるので、刺さるステージでは刺さるのだろう。だが、現状、彼に育成リソースを割く余裕はなさそうである。
「御堂部長。申し訳無いが、イグゼキュターの育成はちょっと考えさせてほしい。ご存知だとは思うが、現状では…」
と、言葉を繫げようと思ったが、私の言葉は御堂部長に届いていないようであった。
私の言葉など上の空であった。
仕方ない。しかし、御堂部長をここまで狂わせたイグゼキュターとは、どんな男なのだろうか。別の意味で興味が沸いてきたのも事実ではあった。