薄暮
「そろそろチャートを見直してみたらどうなんだ?」
遅々として進まない強襲ステージ攻略に苛立ちを隠せず、つい言葉が漏れてしまう。
潤沢にあった演習チケットの残りの枚数もあと僅か。クリアへの糸口は見つかっているものの、実践では上手くいかず、失敗を繰り返していた。
BH-7強襲ステージ。強襲ステージは冬霊シャーマンと上級冬霊シャーマンの移動速度が大幅に向上するというもの。たかが移動速度と侮っていたわけではないが、相当な苦戦を強いられていた。
ステージ攻略のポイントは如何に冬霊シャーマンを蓄音機に近づけずに倒すかにかかっている。その為に減速や差し込みなどを駆使しているもが、あと一歩のところで倒し切れない。
「グラベルでも差し込んで時間を稼いでみる……っていうのはどうですか?」
珍しく喜多村部長が攻略に口を挟む。
たしかに一理あるのかもしれない。
冬霊シャーマンは攻撃力が高く、重装で受けてもあっというまに落とされてしまう。だが、グラベルであれば数秒は持ちこたえることが出来る。その間に狙撃オペレータで削りきっていまうというのだ。
「考えは分かるが、弊ロドスのグラベルは」
昇進1なのである。レベルは20。スキルレベルも4とほとんど育成されていない。
こんなグラベルで果たしてどこまで耐えられるのだろうか。
不安で一杯であったが、グラベルを差し込むことで相当な余裕ができていた。
「これはいけるのでは?」
陰鬱なムードが漂っていたオペレーションルームの空気感が一変した。
「いける」「ちょっとスキルタイミングを見直せがOK」と前向きな声が聞こえるようになってきた。
数回の試行を繰り返す。
クリアできた。
最後も割と余裕がある展開であった。
だが、「ウォルモンドの薄暮」というよい「蓄音機」が厭がられている理由の一端が垣間見えた気がした。
「さあ、次はBH-8の強襲ステージだ。明日も全力でステージ攻略に挑みましょう」
私はオペレーションルームに詰めている攻略スタッフに檄を飛ばす。
皆の表情は、凄く明るかった。あと1ステージ。鼠王のステージ。最難関のステージとなるだろう。これを乗り切って迫る危機契約#4に向けて準備を進めなくてはならない。