弊ロドスに関しまして。

アークナイツ。月パス。月スカ勢の活動記録

妥協点

 その男は突然、私の執務室を訪れた。
「ちょっといいですかい? 折り入って相談したことがあるんだが……」
「どうした急に」
 いつもはもっと高圧的な物言いなのだが。少し後ろめたいものがあるのだろうか、私は少し身構える。
 その男−−攻略部添島部長も私に不信感を抱かせたことを察したのだろう。
「いや。そんなに難しい顔をしなくてもいいんだよ。なに。ちょっと相談したいことがあるってだけのことで……」
 弁明じみた台詞を口にするが、奥歯に何かが挟まったかのような歯切れの悪さに、余計に不信感が増す。
「添島部長に、改めて相談って云われると、それが怖いのがだが。まあいい。その相談っているのは?」
「いやね。大したことではないんですよ。今、攻略中の8章のことなんがら、ようやく最終ステージであるJT8-3まで辿り着いたんでさぁ。で、そのJT8−3の難しいのなんのって。演習チケットの底が見えそうなくらいチャレンジしてみたんだけど、一向にクリアできる見込みが立たない。これがお手上げって状態な訳さ」
「ふむ。なにもステージ攻略がお手上げで、足踏み状態になることは珍しいことではないだろう。7章の時だって、7−9、7−16そして7−18と三回も足踏みしたじゃないか」
 私は添島部長の云いたいことを察した。だが、7章の時は都合、三回も足踏みし、7−18をクリアしたのは、つい先日の出来事であった。だから、何も今のタイミングでJT8-3がクリアできないことは、それほど問題とは考えていなかった。
「ええ。それはそうなんですけどね。7章のときと今では状況が違いすぎる。7章のときはまだ、編成できる12人のうち、昇進2は8人位だったはず。それが今は、昇進2は当然のことで、スキル特化まで完了しているオペレーターもちらほらいる。この戦力でクリア出来ないのは弊ロドスの威信にかかるってもんさ」
 それはそうだろう。添島部長のいいたいことは一理ある。だが、仕方ないものは仕方ないのだ。
「いやね。そういってくれるのは嬉しいんだがね。そこで攻略部としてのご相談がありまして……」
「そうだったな。なんだ相談というのは」
「実はこのJT8-3は最終ステージでボスが登場するのですが、ボスを倒さなくてもクリア自体は出来るんですよ。だからね。ボスをスルーしてクリアするっていう訳にはいかんじゃろうか」
 なるほど。そういうことか。たしかに弊ロドスでは7章に最終ステージである7−18は、攻略時にアーミヤが昇進1であったり、スルトもいなかったりと大した戦力は整っていなかった。よってパトリオットを正面から倒すのは無謀だった。よって、パトリオットを一度、スルーしてから、クリアするという消極策をとったのだ。そして、必要な戦力が整ってから、再チャレンジしたのだった。添島部長は8章でも同じことをしようとしているのだ。
「仕方ないだろう。弊ロドスとしては育成も全力を尽くし、8章攻略にむけ、戦力を整えたが一歩たりなかった、ということなのだろう。添島部長、ご提案の件、了解した。決裁はあとで回してくれて構わない」
 ありがとうございます、と殊勝にも礼の言葉を口にして、添島部長は執務室をあとにした。
 まあ、あと一歩及ばないのも弊ロドスらしくていいのかも知れない。だが、諦めたわけではない。いつの日かクリアできる日がくるよう、日々、研鑽を積む。それしかないのだ。
 私の端末にメールが届いたことを報せるメッセージが表示された。
 端末に表示された送信者から、送信された内容は理解できた。
 送信者は、添島部長。本分には何も記載なく、ただ画像だけが添付されてた。

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むりっす

 狸め。画像のプロパティからこの画像が作成された日時が、先程の相談よりも前であったことが分かる。
 相談も何も、既に実行済みなのではないか。
 きっと、攻略部の総意だったのだろう。そこで添島部長が一芝居うったと。
 鬼のような添島部長も部下のことを思い、妥協点を見いだすことがあるのだという意外な側面がわかっただけでも良しとするしかない。
 あ。これも一つの妥協点なのか。