奇跡
きっかけは様々である。
これは奇跡なのかも知れないという出来事はそうそうお目にかかれるものではない。
だがしかし。今日。目の前で起きた出来事は奇跡だったのはと十分に思える出来事であった。
「どうだ調子のほうは?」
「あと一歩。あと一歩なんすよ」
JT8-3攻略メンバーの北濱係長は頭を掻きながら私の問いに答える。昨日から寝ていないのであろう。おどけた態を装っているが、その表情はどこか焦りを感じさせた。
人事部が公開求人にてナイチンゲールの採用に成功した。人材育成第一課と資材管理課が連携して、すぐに昇進2にさせていた。人材育成第二課もすぐさまS3を特化2にまでさせていた。
「特化2で無理でも、危機契約にむけて特化3の素材も確保に動いてもらっているんで安心して攻略に集中して下さい」と人材育成第二課から善意のプレッシャーを北濱係長はうけていた。
弊ロドスに期待は一気に高まっていた。ナイチンゲールのS3はJT8-3の攻略において最適解に近いと評判であった。当初はナイチンゲールがいなかった為、攻略できないことに対しての免罪符があったのだが、それもなくなったのだから否が応でも期待が高まるのは自明である。
事実、私もオペレーションルームに赴くことが多くなっていた。これも北濱係長のプレッシャーとなっていたであろう。
ストーリーのステージ攻略なので時間制限もない。それでも徹夜で攻略に挑んでいるのは、プレッシャーから解放されたいという彼の気持ちの証左でもあったのだ。
「シャマレでも試してみるか?」
何気なく発した言葉。第4章の攻略時など弊ロドスの戦力が十分出ないとき、シャマレには大分助けられていた。危機契約#2でもシャマレには助けてもらっていた。
何か一歩たりないとき。この経験が役に立つのだ。
「試してみます」と北濱係長はすぐに編成にシャマレを加え、攻略にとりかかる。
「あれ? これは意外といけますよ」
「あ。ここで一回、タルラを倒せるようになった」
「あらら。二回目も割といけちゃうな」
「おおおおおお。これは! いけますよ!」
JT8-3の難所を一つ、また一つと今まで違う結果が出ていることに北濱係長は驚きを隠せなかった。私もここまで効果があろうとは予想だにしていなかった。
そして、この時がきた。
クリアしていた。
8章の攻略にとりかかったのは、マドロックやロスモンティスを昇進2にしてからなので、大体3週間程度かかったことになる。ただ、もっぱら育成やスキル特化に注力していたので、集中していれば早かったかもと思いたいが、結局のところ、ナイチンゲールを採用できたのが大きな転換期であった。これは運としかいいようがない。
そして、シャマレの採用。
まったくもって最近、出番がなかったシャマレを採用しようと思ったこと。思えたことが奇跡だったのだろう。
それからすんなりとクリアできた。
「北濱係長。よくやった」と私が褒めれば、
「北濱。やるじゃねえか」といつの間にかオペレーションルームにいた添島部長が
手荒に部下を褒めていた。
疲れ切ったはずの北濱係長だが、この時ばかりは目に薄らと涙を浮かべていた。
「よし。これで8章は一段落だ。次の目標は危機契約#3だ。気を引き締めていくぞ」
「やってやるさ!」「まかせとけ!」
私の檄にオペレーションルームが湧く。
弊ロドスはすでに危機契約#3に向けて動き始めていた。